Double Booked / Robert Glasper (2009)
ロバート・グラスパーは1978年テキサス州ヒューストン生まれのジャズピアニスト。
2012年の「Black Radio」でHipHop、R&Bやネオソウルとジャズを融合させることで一大ムーヴメントを引き起こし、世界中の音楽に影響を及ぼして現代ジャズをオーバーグラウンドなシーンに引き上げた重要人物です。
彼の最大の功績はピアニストにも関わらず上モノのメロディーではなく、ドラマーを全面に押し出してリズムを主役としたことでしょう。
この4thアルバムである「Double Booked」では、ドラムに自身の高校の先輩でもあるクリス・デイヴを起用したことでそれが顕著に現れています。
以下参加メンバー
Robert Glasper (piano)
Vicente Archer (Bass) Track 1-6
Chris Dave (Drums)
Derrick Hodge (Electric Bass) Track 7-12
Casey Benjamin (Alto Saxphone, Vocoder) Track 7-12
Mos Def (Vocals) Track 7
Bilal (Vocals) Track11 12
アルバムは二部構成となっており、1-6曲目までがアコースティックなトリオ編成、
それ以降はエクスペリメント名義のエレクトリックなバンド編成です。
The Robert Glasper Trio
- "Intro"
- "No Worries"
- "Yes I'm Country (And That's OK)"
- "Downtime"
- "59 South"
- "Think of One" (Thelonious Monk)
The Robert Glasper Experiment
- "4eva" (R. Glasper, D. Smith)
- "Butterfly" (Herbie Hancock)
- "Festival"
- "For You" (C. Benjamin, S. Gupta)
- "All Matter" (Bilal Sayeed Oliver)
- "Open Mind" (Derrick Hodge)
とにかく全編通してクリス・デイヴが叩きまくっており、代名詞のよれたビートや意表をつくフィルイン、人間業とは思えない連打に小刻みなテンポチェンジなど彼のドラミングを堪能できます。
グラスパーのピアノもリズムを強調したプレイでうまくスペースを作り、ヴィセンテ・アーチャーとデリック・ホッジが地味ながら屋台骨を支えるベースを弾くことで全体の調和が見事に取れています。
私が好きなのは2,3曲目であり、特に3曲目の「Yes, I'm Country (And That's OK)」は美しいテーマにクリス・デイヴの強烈なドラミングが載った極上のトラックです。
6曲目の「Think Of One」はセロニアス・モンクのスタンダードにDe La Soulの「Stakes Is High」をマッシュアップしており、ヒップホップを経由しているグラスパーらしいアレンジになっています。
私は2010年当時にJ Dillaの打ち込みを生のドラムでやっている奴がいるという話を聞いてこちらのアルバムを耳にしたので、この曲に一番衝撃を受けました。
また、「Stakes Is High」の元ネタはAhmad Jamalの「Swahililand」ですが、スペースとリズムを大事にしたピアノという点でグラスパーとAhmad Jamalは共通点が多いと思っているので、ヒップホップを取り入れて革新的なことをしているようでトラディショナルなジャズを継承しているというグラスパーの思想が現れていて大変興味深いトラックです。
エクスペリメントの演奏が始まる「4eva」ではラッパーで俳優であるMos Defがフィーチャーされていますが、クリス・デイヴのループでずっと聞いていたくなるようなもたったドラムが最高です。今やこの叩き方も世界的にスタンダードになっているようで、日本でも若者はこれができないと駄目という話も聞きます。
ハービー・ハンコックの「Butterfly」はディスコにチャレンジした「Sunlight」からのものですが、近年のハービーはグラスパーと同年代でKendrick Lamarの「To Pimp A Butterfly」をプロデュースしたことで今や売れっ子プロデューサーとなったTerrace MartinやTrevor Lawrence Jr.をバンドメンバーに入れたことでこちらの曲をやる機会が多くなっているようです。
大学の同級生である盟友Bilal参加曲は次の「Black Radio」に繋がるようなトラック。
特に「All Matter」はBilalのアルバム収録バージョンとは違いジャズのテイストが大きく出ています。
学生時代にR&Bではなくジャズばかり聞いていたというBilalの本領発揮といったところでしょうか。
最後もクリス・デイヴのライヴのようなドラミングで幕が降ろされます。
歌をフィーチャーした「Black Radio」シリーズやしっとりとしたトリオ編成の「Covers」なども素晴らしいですが、ジャズとヒップホップ、ネオソウルの融合とリズムを全面の押し出していてドラムが楽しいという点で私はこの「Double Booked」が一番好きですので、ぜひ聞いてほしいです。
最後にグラスパー、デリック・ホッジ、クリス・デイヴのトリオ編成でこちらのアルバムのエッセンスが詰まっているライブを紹介します。